なぜ人は“変わりたい”と思いながら変われないのか
「もっと成長したい」「理想の自分に近づきたい」——そう願って努力しても、気づけば元の生活に戻ってしまう。
そんな経験はありませんか?
これは意志の弱さではなく、人間に備わった仕組みが関係しています。
本稿では、
- 人間の本能としての「現状維持性」
- 「コンフォートゾーン」「ホメオスタシス(恒常性維持機能)」という概念
- 一般に“モチベーション”と呼んでいるものの誤用/本来の意味
これらを手がかりに、「変化できる人/できない人の違い」について考えていきます。
変化を嫌う本能:コンフォートゾーン
心理学や実用書でよく出てくる言葉に「コンフォートゾーン(comfort zone)」があります。
これは、「自分にとって心理的・身体的に安心できる領域」「いつもの自分でいられる、慣れ親しんだ状態」のことを指します。
この状態は、不安やストレスが比較的少なく、予測可能な行動パターンを繰り返しやすいのが特徴です。
例)
- 慣れた職場で同じ仕事を続ける
- 毎日同じ時間に起きて、同じルートで通勤する
こうした「慣れた日常」が、私たちの心や身体に「ここが安全安心な領域だ」と感じさせます。
コンフォートゾーンに留まりたい:ホメオスタシス
人間には、「変化を無意識に抑制して、現状を維持しようとする性質」があります。
これは、生理学・生物学の用語でいうところの ホメオスタシス(恒常性維持機能) に近い概念です。
例)
- 平熱が36.5 °C の人が、温度の高いサウナ(例えば 100 °C)に入ると、汗をかくことによって体温上昇を抑える
- 寒冷な場所に行くと、震えたり血管を収縮させたりして体温を保とうとする
こうした反応は、意識的に「汗をかこう」「震えよう」と思ってやっているわけではなく、身体が自動的・無意識的に調整しているものです。
このような「平衡を保とうとする力」を心理的なレベルにも拡張して捉えると、「人は変化を受け入れづらい」「現状に戻ろうとする無意識的な力」が働く理由として説明できるわけです。
モチベーションは、コンフォートゾーンを維持しようとする力
「モチベーションを高めよう」「モチベーションが下がる」という日常的な使い方は、厳密には言葉の使い方が少し違います。
認知科学や一部のコーチング理論では、モチベーションを次のように再定義することがあります。
モチベーションとは、「コンフォートゾーンから離れた状態を元に戻そうとする無意識的な働き」である。
この考え方によれば、
- 暑い → 汗をかく
- 寒い → 震える
というような身体反応も、モチベーション(=現状への回帰)です。
注目すべきポイントは、意識ではなく、無意識が安全・安心を覚えるコンフォートゾーンを維持しようとする力がモチベーションということです。
例えば、体重 80 kg の人がダイエットで 10 kg 減量しても、再び 80 kg に戻ってしまうケースがあります。
これは、無意識が「私にとって安心なのは 80 kg の状態だ」と判断しており、モチベーションがそこに戻そうとするからです。
リバウンドは、意識と無意識のギャップにより生じます。
モチベーションが働く限り人生を変えられないのか?
どれだけ良い話を聞いたり努力しても、モチベーションが強く働き、元の状態へ引き戻そうとするため、なかなか変化が得られない。
これでは人生を変えることが難しいのではないか?
という疑問が生まれると思います。
しかし、世の中には「夢を実現する人」が沢山います。
一方で、「夢は叶わず、現状にとどまる人」もいます。
この違いは何でしょうか?
答えは「コンフォートゾーンをどこに置くか」の違いです。
無意識の安全・安心領域を現在の自分に置く場合、努力してもモチベーションは今の私を維持しようとします。
コンフォートゾーンを未来の理想の自分に設定している人は、未来の理想像を実現するためにモチベーションが働きます。
「年を重ねる度に老いが加速する人」と「いつまでも若々しくイキイキしている人」の違いも、まさにここにあります。
安全・安心と感じる自分が「過去・現在」にあるのか、「未来の自分」にあるのかで、心と身体に与える影響は大きく異なります。
まとめ
- コンフォートゾーン:私たちが「安全・安心」を感じる領域
- モチベーション:コンフォートゾーンを維持しようとする無意識的な力
- 夢の実現:コンフォートゾーンを未来の理想の自分に設定
なりたい自分になるためには、モチベーションを自分の味方につけることです。
あなたのコンフォートゾーンはどこにあるでしょうか?
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