「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、「対処できない状況で、答えが見つからなくても耐える能力」です。
これとは逆の概念「ポジティブ・ケイパビリティ」は、問題や課題に対してすぐに答えを出せること、出来るだけ早く解決策を提示できる能力を指します。
ビジネスの世界では、当然ポジティブ・ケイパビリティが重要視され、評価の対象になります。
学校でも、出来るだけ早く答えを導き出す能力が教育の中心にあり、それによって成績も決まります。
しかし、私たちが日常生活で抱えている課題には、学校の試験のように明確な答えがあるものばかりではありません。
人間の心の問題や人間関係に始まり、自然災害やパンデミック、複雑な世界情勢や紛争・戦争、自分の力ではどうすることもできない未知の問題が身の回りに山積しているのが現状ではないでしょうか?
予測不能な未来や、人ぞれぞれ事情の違う複雑な問題に対して安易な答えを出すことは、誤った方向に向かう危険もあることは想像に難くないと思います。
だからと言って諦めるのではなく、この状況で必要とされるのが、対処できない状況に耐える能力、すなわちネガティブ・ケイパビリティです。
ポジティブ・ケイパビリティのリスク
ネガティブ・ケイパビリティの有無による違いを、以下の事例で考えてみます。
例_1:ポジティブ・ケイパビリティのみで思考する場合
- 新しい事案でも、経験値だけで判断したり、熟慮せず憶測で決めつける
- マニュアル通りに進まないと思考停止する
- 分からない状況は不安で耐えられない、何かしないと落ち着かない
- 想定外の事件が起きたり、追い詰められるとパニックになる
- 中長期的な戦略を立てるのが苦手
例_2:ネガティブ・ケイパビリティを発揮できる場合
- 新しい事案では答えを急がず、最適解を探す
- マニュアル通りに進まない場合は、一旦立ち止まって考える
- 不安に耐える力があり、待つことができる
- 想定外の事件が起きても動揺せず、事態を許容できる
- 直ぐに効果が出なくても、未来のために行動できる
極端な例で比較しましたが、ポジティブ・ケイパビリティ偏重の教育では、例_1のような危険もあり得ると考えます。
ネガティブ・ケイパビリティの必要性
ポジティブ・ケイパビリティの問題点を強調しましたが、どちらが良い・悪いではなく、どちらも必要であることは言うまでもありません。
世の中にはやるべきことが明確で、直ぐに着手して早く問題を解決した方が良い事案が沢山あります。
そのためには、ポジティブ・ケイパビリティが必要です。
一方で、じっくり時間をかけなければ真の問題点や解決策が見出せない事案もあります。
苦境に立たされ手も足も出ない状況であったり、どう考えても分からない問題に遭遇した場合は、急いで答えを出すことはせず、疑問を持ち続ける時間も必要です。
その際に、焦りや不安に惑わされず、諦めることなく答えのない問いに向き合える能力、これがネガティブ・ケイパビリティです。
大切なのは、この状況はどちらを働かせて対処したら良いのか見極めることだと思います。
ポジティブ・ケイパビリティ最優先で生きてきた方は、不確かで曖昧な場面に遭遇した際にネガティブ・ケイパビリティを意識してみてください。
ネガティブ・ケイパビリティを身につけることによって、困難な状況でも事態を冷静に分析し、課題に対して柔軟に対処できるようになります。
その結果、既存の思考の枠組みを超えた、新しいアイデアが生まれることがあります。
コーチングに欠かせないネガティブ・ケイパビリティ
皆様は、子供時代に「そうではない、もっとこうしなさい」と、大人からアドバイスを受けた経験があると思います。
私は、そのようなアドバイスに対して、幾度となく違和感を覚えたことを思い出します。
仮に、指摘の内容が正論であっても、「違和感があるのは私にとってベストではないから」と、大人になってから気がつきました。
ネガティブ・ケイパビリティのない大人は、「そうではない」と否定し、「こうしなさい」と正解を教えたがります。
ネガティブ・ケイパビリティのある大人は、その子の状態をまず観察します。
そして、やる気がない子には「やりたくないんだね」、どうしたら良いか分からない子には「どうしたら良いのかな?」、上手にできない子には「なかなか上手くいかないね」などと、その子の状態を理解しようとします。
状況により忍耐や我慢が必要かもしれませんが、この能力がネガティブ・ケイパビリティです。
当然のことながら、コーチングのコーチにはネガティブ・ケイパビリティが必須です。
クライアントの言動、今の状態には必ず理由があります。
それを理解せずに「こうしたら良い」とアドバイスするのはコーチングではありません。
私の知識や経験は一旦手放し、クライアントの「悩み」に対して一緒に悩み、クライアントの「分からない」に対して一緒に答えを探します。
そうすることで、クライアントがなぜそうなのかを深く理解することができ、適切な問いかけが生まれ、深い気づきが得られるようになります。
ネガティブ・ケイパビリティは、コーチングの様々なスキルの土台になります。
最後に、ネガティブ・ケイパビリティを身につけるための考え方をご紹介します。
- 焦り:「人生には時間がかかることもある」「焦っても時間は短縮されない」
- 不安:「不安は大切なことを教えてくれるシグナル」「何を伝えたいのか受け入れてみる」
- 悩み:「安易な解決方法では納得できないから悩む」「最善を見つけるために悩む」「悩むことは悪いことではない」
- 分からない:「無理に答えを出さなくてもそのまま放置」「そのうち自分なりの答えが出てくるので、それまで待つ」
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