リスキリング
リスキリングというキーワードがメディアに登場する機会が増えてきました。
リスキリングと併せて「学び直し」と言うキーワードが一人歩きし、何を・いつ・どのように学ぶか、と言う方法論が溢れているように感じます。
ここでは、リスキリングの本流について整理しておきます。
2020年に開催されたダボス会議で「2030年までに地球人口のうち10億人をリスキリングする」とするリスキリング革命を打ち出して以降、日本でも経団連が新成長戦略の中でリスキリングの必要性に触れたり、昨年の臨時国会では岸田首相が「個人のリスキリングの支援に今後5年で1兆円を投じる」と表明しています。
リスキリングとは「リ・スキル」、つまり学び直すという意味ですが、今までの専門分野を磨くようなスキルアップや再教育のリカレントとは異なり、今後の市場ニーズに対応するため、新たな知識や技術を身につけるための取り組みを指しています。
特に、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進、つまりデジタル技術によって業務の改善やビジネスの仕組みを変革していくために必要な人材を育成する文脈で語られることが多いようです。
ここまで政府が力を入れる背景には、少子高齢化や人口減少によってあらゆる業界が立ち行かなくなることと、ITやAIによって消えていく職業があるためだと私は理解しています。
コロナ禍でリモートワークやオンライン会議が増えたり、国や自治体からの助成金も得られることから、推進している企業も増えているようですが、単純に業務をデジタル化するために従業員を教育することだけがリスキリングではありません。
人的資本経営
リスキリングの本流を理解するために、人的資本経営の観点を一部だけご紹介します。
古い体質の企業は、人材を「人的資源」として捉え、コストとして管理する傾向がありました。
それに対して、人的資本経営は人材を「人的資本」であり、投資して成長させるものと考えます。
例えば、経営者が10の仕事をするために10人の従業員を雇ったとします。
人材を資源として扱った場合、10以上の生産性は望めず、問題が起きれば9や8にパフォーマンスが下がったり、別な10の仕事が発生した場合には、追加で10人の従業員を雇う必要があります。
人材を資源ではなく資本と見て、現状の人材に投資をして、従業員のパフォーマンスを上げることができれば、人を増やすことなく10以上の仕事ができるようになり、企業も共に成長していきます。
ここにリスキリングという考えが出てきますが、これは、少ない人数で業務を効率化させて業績を上げていくだけの話ではありません。
※ 人的資本経営については、経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」に詳しく掲載されています。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/
従業員エンゲージメント
米国GALLUP社の調査によると日本の従業員エンゲージメントは世界に比べて圧倒的に低く、毎回ほぼ最下位です。
従業員エンゲージメントとは、仕事に対する「やる気」や「やりがい」、「社会に貢献したいという意欲」などを指します。
これは、給与や福利厚生などの待遇、職場の環境などに対する満足度とは異なる側面です。
何故日本の従業員エンゲージメントは、諸外国に比べて低いのでしょうか?
終身雇用、年功序列、大きな組織になれば個人の意見が通り難く新陳代謝が難しいなどの要因や、そもそも学生時代の教育にも問題があるかもしれません。
リスキリングは、自分で空いた時間に学び直すのではなく、職場で仕事をしながら今後必要なスキルを身につける取り組みなので、エンゲージメント向上に期待できます。
但し、「今日からあなたはこれを学んでください」と、トップダウンで一方的に指示される体制では逆効果です。
パーパス経営
人的資本経営の考えの中に、パーパス経営があります。
パーパスとは直訳すると「目的」、つまり「何のためにこの仕事をするのか 」「何を実現したいのか」という企業の「存在意義」や「社会的価値」を掲げて経営することをパーパス経営と呼んでいます。
自社の存在意義を明確にすることで、自社と社会との繋がりが実感しやすくなり、従業員は自分が仕事をすることで社会に貢献できる自覚を持ちやすくなります。
企業はパーパスを明確にする、従業員は企業のパーパスを理解した上で入社することが望ましく、その志を共有し、パーパス実現のために私の役割は何かを考え、そのために新たな業務が発生すれば、必要な知識や技術を身につけるためにリスキリングする、という流れになります。
人的資本経営とコーチング
最後に、コーチングとの関わりについて考えていきます。
企業のパーパス「何のためにこの仕事をするのか 」「何を実現したいのか」は正にコーチングで問いかけるテーマです。
パーパスを明確にする作業は簡単ではありません。
某食品会社はパーパスを策定するために2年間模索したそうです。
しかし、パーパスを掲げた結果、組織が一丸となってパーパス実現に取り組み、過去最高収益を達成したという事例もあり、企業にとっては大切な経営の軸になります。
パーパス策定にはコーチングが大変有効です。是非経営者の方はコーチを利用してください。
さらに、コーチングはリスキリングの場面でも大変有効です。
先に述べたように、トップダウンで苦手なことを従業員に強いることは得策ではありません。
「あなたが好きなこと、得意なこと、やってみたいことは何だろう?」「あなたが会社に貢献できることは何だろう?」「あなたが成長し会社も成長することって何だろう?」などを問いかけながら、企業のパーパスと個人のパーパスの共有ゾーンを見つけていく作業は、リスキリング導入の際には重要で、コーチングが大変役に立ちます。
そして、リスキリングを進めていく上で社内のコミュニケーションはとても大切です。以下のプロセスでコーチングを導入すれば、リスキリングは成功するでしょう。
- 目標設定:新しい役割や職務に就くために、何をどこまで習得するのかを設定
- 課題解決:学ぶ上での障害などがあれば、克服するための支援
- フィードバック:何が出来たか、出来ていないか進捗を整理する
- 観察・自己評価:進捗状況を客観的に観察して自己評価し、必要であれば調整して次のステップに進む
まとめ
今回のテーマ「リスキリング」についてのまとめです。
リスキリングが注目されている背景を整理してみました。
企業にとっては「人的資本経営」という経営スタイルにシフトしていくこと。
そのためには企業のパーパスを明確に定め、パーパス経営実現のために必要なスキルを身につける「リスキリング」を導入することで、企業全体が成長し企業価値が上がっていきます。
個人においては、パーパスに共感できる企業に勤めることで、高いモチベーションを持って働くことができ、リスキリングによって、よりパーパス経営に貢献することができ、自己成長にも繋がります。
これが絵に描いた餅にならないように、上手く回していくためには、経営者にとっても従業員にとってもコーチングが不可欠である、ということを付け加えておきます。
この記事へのコメントはありません。